……。 今日もまた宮廷の演奏会。いっつもいっつも曲ばっかり聞いてて貴族の皆様方って他にやる事ないのかなぁ。 だーいたい何よ、音楽の父とか勝手に囃し立てちゃってさ。単に格調高い音楽を聴いてますーってステータスが欲しいだけじゃない。 そのステータスとやらもねぇ、ほら今日も最前列で舟こいでるし。寝てるだけで格が上がるんだったら苦労しないわ。 あーもう気付いたら半分くらい寝てるし!私の曲は子守唄じゃないのよ? ……ふふふっ、そんなこともあろうかと今日の曲はちょ〜っと違うのよ〜?さぁ待ちに待ったお楽しみタ〜イム!それっ! あはははっ!成功成功だ〜いせ〜こ〜!最前列のおじさん、跳ね起きたもんだからネクタイひん曲ってる〜! えっ何?今の曲?そうそう、「驚愕」って名づけよっか。タイトルからタネを仕込んでおくのも手よね? (ハイドン:1732〜1809) オーストリアの古典派を代表する作曲家。長年に渡り、ある貴族のお抱え作曲家という位置にいた。 上記の交響曲94番「驚愕」は、楽曲中、ゆるやかな旋律の中にいきなり大音量、スフォルツァンドで和音を鳴り響かせて聞いている観客を驚かせるところから来た…という話。 例えて言うなら川のせせらぎを聞きながら芝生の上でたたずんでいるところに、いきなりツンデレ娘のハイキック(ぱんちら有)が炸裂したようなもんだろう(マテ |
……。 お姉さまは、自発的で、活発で、何もかも私とは反対の人。 だから、惹かれたのかもしれません。 作曲の依頼が来てから、描く。 人が描いたモチーフに寄りかかるほうが楽だし、それで今まで生きてきたんです。 でも、お姉さまが私の全てを変えてくれた、そんな気がしたの。 あの輝きを持ったまっすぐな瞳が、それでいいの?それで満足してるの?って、私に問い掛けてきたから。 そうです、ハイドンお姉さま。 神童って呼ばれ始めて、今まで。 他人の意思の上に曲を乗せることしか知らなかった私が、生まれて初めて、自分の意志で、楽譜を描いています。 完成した暁には……私のヴィオラの音色、聞いて頂けますか。 そして……私の心も。 (モーツァルト:1756〜1791) 5歳の時から楽曲を描いていたと言われる蝶・天才児。故に神童と呼ばれる。 青年になってからもその才能は衰えず、29歳の時にハイドンと出会うや、ハイドンをして「こいつぁ天才だ」と言わしめた。 その後密接になったハイドンに献上した弦楽四重奏曲集や、数々のオペラ曲が有名。ピアノで言うとトルコ行進曲とか。 ……でも先生、作品No.K.231「俺の尻をなめろ」ってどうなのよ…… |
……。 (かきかきかき) …………。 はぁ。 いい?私が言いたいことは一つだけ。 いーから、たまには5番と9番以外も聞いてよ。 (ベートーベン:1770〜1827) 皆さんご存知の『楽聖』。まさに譜面を起こしている際は『神・光臨』状態だったんだろう。 難聴にも負けない音楽家。音楽=一般大衆の娯楽という位置付けを最初にした凄い人。 |
……。 ふふ。 あたし、そんなに節操無く見えるかなぁ? 世間じゃあたしのコト同性愛者だとか何とか言ってるけどさ。ちゃーんとフツーのセックスだってするよー? あ、うん、そう。『だって』ってトコ。うん、いいトコに目をつけたねぇ。 そう、キモチイイってことが人生にとって至高のスパイスになると思うんだ。 それに関していちいち相手が同性か異性かなんて関係ないワケ。 だからねぇ、それは五線譜の上だって同じだと思うのよ。 寄せて引いて、焦らしてみたと思ったら突き上げて、最高の絶頂に達するまで幾つもの駆け引きがあったほうが面白いじゃない? 私の曲を叙情的なんて言う輩がいるけど、最高かつ最ッ悪の賛辞よね。 だってさぁ、あたしの本質見抜いてるくせに、一番取り繕った言い方だもの、それ。 ねぇ、あたしの曲、そぉんなに難しい? 譜面だけ見てないで、実際に演(や)ってみたら? 意外と快感かもしれないわよぉ?ふふっ…… (チャイコフスキー:1840〜1893) 数々のロマン派作品を生み出したロシアの作曲家。代表作は序曲1812年やくるみ割り人形、白鳥の湖とか。 私生活では異性と破局→同性愛に走る、という典型的な破滅っぷりを突き進んでいたという説が有力。 というかこういう方々って失恋が大曲製作のトリガーになる場合って多いんだよなぁ…… |
……。 ったく、何で私がこんな編曲しなきゃいけないのよっ! な、何よその目は。貴方が描けって言ったから描いてるんでしょ?少しは感謝しなさいよ! はぁ?キミになら出来ると思って話をした?あったり前じゃない!あたしを誰だと思ってンのよっ! ……だからさ〜、ピアノ組曲からオーケストレーションを引き出せってことでしょ?簡単よカンタン! 私のおかげで……展覧会の、絵、だっけ?この作品が甦るんだから!じゅぅぶんに感謝しなさいよっ! ……。 そうだ、せっかくだから新しく出来た曲、聞いていきなさいよ。 べ、別に貴方に最初に聞いて欲しいとかそんなんじゃなくて……そ、その、試聴よ試聴! そ、そうよ、率直に聞いてどう思ったか〜って!リサーチなんだから!それ以上の何者でも無いんだから! ね、ほら、どうかな?コレ、ボレロって言う……って!ちょ、ちょっと、何不機嫌になってんのよ! なんで帰るって……ねぇ、全ッ然話終わって無いわよっ!! ……あ………… ご、ごめん、一方的に聞いてよって言ったのに……私が怒れるワケ、無いわよね…… ……あ、あのね、実はね……その、それで、あってるンだ。 おちゃらけた曲なの。こんなんで満足したらそれこそどうかしてるって、自分でも思う。 …………そっか、貴方は、気付いてくれたんだ…… あ、あの、さ。 これ、ホントに皆に聞かせたら、どういう反応するかな? 奏法に騙されて、拍手とかしちゃうかな? ……そのほうが、いいな…… これが、貴方だけが気付いてくれた曲になるんだもの…… あ……あの、あのさ。 良かったら、だけど、その、暇だったらでいいんだけどっ。 私の曲、もっと聞いてくれない? (ラヴェル:1875〜1937) 上記『展覧会の絵』は、ムソルグスキー作のピアノ曲を、ラヴェルがそのオーケストレーション技術をフルに活かして編曲した為に有名になった。 通り名は「スイスの時計職人」。印象派にして精密な譜面が特徴的、と言われる。私としてはこの『ボレロ』、これってトランスだよねぇと思うんだが、どうか。 上記のツンデレっぷりは、初演の際に客席の老婦人が「キ○ガイの曲だ」と憤慨して出て行ったという話をラヴェルが聞くと、彼は嬉々として「この曲を判ってくれた」と返した、という逸話から。 |
……。 自分を押し殺して生まれた曲に、魂は宿りますか。 それとも、楽譜が、私の魂を塗り替えていくのですか。 私がまだ若かった頃は、無茶をしたと思います。 とにかく有名になろう、何でもしてやろうと思い、所構わず、何にでも手を出していたと思います。 ただ、この国に生まれた時から、私はご主人様のものでした。 それを身体をもって知ってから、私の曲は変わったでしょうか。 ご主人様のお気に入りになるべく、ペンを走らせました。ご主人様の英雄譚を描いたこともありました。 それが私と言えば、そうなのでしょう。 ご主人様がいない私など、あり得ないのですから。 ……。 昨日、たまには自分の為に曲を描いてみろ、と、ご主人様が仰いました。 今になって、どういうことなのでしょう。 でも、題名は昔から決めていました。「バビ・ヤール」と。 ……もう、決めて、ある? 自分の、曲として? ご主人様の手を離れた、曲として? ……私は、私が判りません。 この曲も、結局はご主人様の意思どおりの曲となってしまうのでしょうか。 答えは……多分、完成した曲だけが、知っているんだと思います。 (ショスタコーヴィチ:1906〜1975) ロシアの大地に、まさに激動の時代を生きた作曲家。 北の大地が赤に染まった時、言論統制と共に音楽芸術の域でも統制が始まった為、作風も抑制された。その差は交響曲4番と5番を聞き比べてみれば丸判りと思う。 晩年にその存在自体が神格化されるまで、その統制は解けなかった。上記「バビ・ヤール」はその晩年の作品。交響曲13番。 |